魅惑のハニーリップ
 まさか、優子にそんなことを突っ込まれるとは思ってもみなかった。

「言ってないよ。だって関係ないじゃん、宇田さんには」

「……遥のこと、心配してくれてたのに関係ないの?」

「それは……」

 たしかに、宇田さんは私と和久井さんとのことを心配してくれていた。
 言い寄られて迷惑なら、相談してくれと言っていたくらいだし。

「本当は、言えなかっただけなんじゃない?」

「……そうなのかも。宇田さんが心配しすぎなくらいしてくれてるから、逆に言いづらいっていうのも……ある」

 それを聞いて、優子は私の顔を冗談めかして覗き込む。

「ホントにそれだけかなぁ?」

「え?」

「まぁいいや。明日のデートで和久井さんのこと気に入っちゃうかもしれないもんね。そしたら宇田さんの心配も取り越し苦労っていうか、必要ないしね」

 優子が何気なく使った言葉が、なぜか胸をザクリとえぐる。

 ――… 『必要ない』という言葉

 どうしてそんな気持ちになったのかは、自分でも不思議で説明がつかない。
 なにがそんなにショックだったのだろう。


 15時頃、ちょっとした休憩を取ったときに、宇田さんからもらったロールケーキを食べた。
 雑誌にも載るくらい人気があるケーキだから、当たり前にすごくおいしい。
 それに、宇田さんが列に並んでいる姿を想像すると、それだけで心がほっこりと温まって、顔が自然にニヤけてくる。

 もう、太るとかそんなのどうでもいいと思えるくらい、そのケーキは私に元気をくれた。

 まるで……魔法のケーキみたいだ。

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