ピンク☆ゴールド【短編】
涙ぐんだ目尻を、指で優しく拭うと、錐生はなんだか、切なそうな顔で私に微笑んだ。


「その顔見ると……やっぱり気がついてないんだね。」


はぁ…と浅く溜息をついて、私の顔から手を離すと、体の向きを変えて、また歩き出した。

私はそれに、慌てて着いて行く。

きゅっ…と握られた手は、ずっと離れずに、ただ私達の体温を伝えている。

錐生が傍にいるんだと実感させられて、急に胸が締め付けられる。苦しい訳でもなく、恥ずかしい訳でもなく…何だかもどかしい。

自分でも、感情が理解出来なくて、息詰まったような気分になる。

……最近何時もこうだ。


錐生が隣に居る…と考えただけで、私の心に靄がかかる。霧掛かったように、モヤモヤして、スッキリしないんだ。



何なの…、この気持ち……?

今までに一度も感じた事のないこの感情――。



私まだ、『この気持ちの名前』を知らなかったんだ……。





―――……。



やっと着いた水族館。あまり電車を使わなかったせいか、普通よりも、時間が掛かった。


「あちゃー…予定より遅れたな……。」


時計を見ると、時刻はもう12時になりかけている。


「先にお昼、食べようか?」

「うん。その方が、後からゆっくり見れるし。」

「じゃあ、そこのコンビニで、何か買おう♪」


錐生の指差した方には、ほんの数メートル放れたコンビニがあった。


「歩いて一分も掛かんねぇな。」

「そうだね。」

「よしっ――行くか。」



本当に一分も掛からなかったコンビニには、時間帯に合わせて、ずらっと沢山の商品が並んでいた。


「お嬢〜どれにすんの?」

「うーん……そうだなぁ、これ?」


そう言って私が手にしたのは、フランクパンとカスタードクリームパンだ。


「へぇーうまそ。じゃあ俺はこれかな。」


錐生は、デミグラスハンバーガーとメロンパンを手に取った。


「二人共、パンじゃない。」

「そうだね〜♪」


あとは、お互い同じスポーツ飲料を買って、外に出た。



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