ピンク☆ゴールド【短編】
「『エンゼルフィッシュ』だね。」


錐生が、水槽の横に付いていた説明を読みながら言った。

『エンゼルフィッシュ』……名前も可愛いんだ。

思わず笑みが零れる。


“エンゼル”って、天使…みたいに優しく美しい人をいうんだよね。愛らしくて私は大好き。


私も誰かに愛されるような人になりたいな…。



「ふ……お嬢だって、十分天使みたいだよ。」


ポンッ、と頭を撫でてくれる。

私の思ってる事…錐生は解るの?


「…ありがと。」


錐生は、愛しいモノを見るような瞳を私に向けて、ゆっくり歩き始めた。



次に来たのは、サメやエイなどの海の深くを泳ぐような大きい魚達のいるブース。

辺りは暗くなっていて、所々に光る電球が、余計に水槽を妖しく見せる。

底光りする鋭い眼が、サメ達の怖さを引き立てていた。



更に奥へ進むと、次のブースには、アザラシやラッコ、ペンギンなど可愛い動物達が楽しそうに泳いでいた。


「かぁわいい〜♪」


周りには、私と錐生しか居なくて、貸し切りみたいな状況に、少しはしゃいでいた。

私がアザラシの水槽を覗いていると、その事に気がついたらしく、アザラシがガラスに寄って来た。


「ん〜可愛い…。」


ガラスに鼻を押し当ててるアザラシ。その姿があまりにも可愛くて、凄く癒される。

私もガラスに近づいて、額をガラスにくっつける。ひんやりと冷たい感覚がして気持ちいい。

ちょうど真ん前にあったアザラシの顔が、少しおどけていて、とても愛らしかった。


ふと錐生の顔を見ると、何だか少しだけ不機嫌そうにしかめっ面をしている。


「……錐生?」


何があったのかよく解らなかったから、私は声を掛けた。


「何でも…無いよ。」


表情を変えないまま、そう返事をすると、その場を後にした。





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