ピンク☆ゴールド【短編】
「……少し休憩しようか。」
そう言って立ち寄ったカフェ。水族館内に設置されていて、かなり広々した空間だ。
「何か飲む?」
「じゃあ…アイスティー。」
分かった、と一言呟いて、飲み物を頼みに行ってくれた錐生。
その間に、窓側の二人用の席をキープする。
…さっきから、何でも錐生がやってくれてるような気がして、本当に申し訳ない。
だからと言って、私がやると言い出しても、「お嬢はいいの」とか言って、絶対に譲らなそうだし……。
本当、私ってダメだなぁ…。
「お待たせ〜。」
そう言って、両手にグラスを持った錐生が戻って来た。
「ありがとう。」
渡されたアイスティーに、ストローを注すと、ゴクッと一口、口に含んだ。
「あれ?お嬢はガムシロとか入れないの?」
「うん。ストレートが好きなの。」
また一口…と、少しずつ喉に流し込んでいく。キン…と冷えたアイスティーが、喉を潤す。
「何にも染まらないか……。」
「え?」
「あ、いや…何かお嬢みたいだと思って。」
私?…私が何みたい?
いまいち理解出来なくて、首を傾げる。きっと今、口がへの字になってるよね。
そんな私を見て、錐生はフフンと得意げに笑った。
「何色にも染まらない…アイスティーとお嬢、似てるでしょ?その『モノ』だけを主張する、みたいな。」
言われて見れば……確かにそうだ。
私は、あくまで『個性』を大切にしている。
周りに合わせて生活することが何より嫌いだ。
『自分らしさ』を潰すつもりは、毛頭ない。
「でも………。」
ボソッと錐生が何か呟いた。辺りに人が増えて、声が聞き取りづらい。
「何?」
「…染まらないからこそ、俺色に染めたくなる。」
ニヤリと妖しく微笑む錐生。その口元や瞳からは、明らかな自信が、たっぷり伝わってくる。
「どっ、どういう意味よ!?」
「どういう意味って……そのまんまの意味だけど?」
…完全に私は弄ばれている。自由に躍らされているんだ。
この時の私は、そう考える事しか出来なかったんだ。