ピンク☆ゴールド【短編】
「さぁてと、ここであんまりのんびりし過ぎてもね。」


ガタッと錐生は席を立った。それに釣られて、私も席を立つ。

殆ど飲み干したアイスティーのグラスに残っていた氷が、カラン…と微かに音を立てた。


「閉館時間まで、あと1時間だね。」


時刻は3時半。閉館時間は、4時半だ。


「帰るのにも、時間掛かるし。他に廻りたい所、ある?」

「私は特に無いよ。」

「じゃあ…今日はもう帰ろうか。」

「うん。」



まだ外は明るかったけど、この時間帯になると、帰ろうとする人が殆どだった。





水族館を出て、歩き出す。さっきまで繋がれていなかった手が、当たり前のように握られて、ほんの少し戸惑う。

だけど、何故だか、繋がれた手を離したくはなくて、きゅっ…と握り返していた。


長い間、沈黙が流れる。話したい事はいくらかあるはずなんだけど、この静けさを破る気にはなれなかった。


…そんな空気を一転させたのは錐生。



「お嬢、今日は付き合ってくれてありがとう。」

「別に恋人同士なんだから、いいんじゃないの?」

「はっ…それもそうだな。」



……何だか、きゅぅ…と胸が縛られる。

この上ない程の不快感――。何なの?


「……ねぇ。」


私は思い切って、錐生に尋ねた。


「な〜に?」


錐生は前を向いたまま答える。凛とした横顔が、私に緊張感を与える。



しっかりしなきゃ……


すぅ…と呼吸を整える。



「錐生は……私の事、好きなの…?」




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