ピンク☆ゴールド【短編】
「そして…あの時、突然私から錐生が離れていった時……。何時も隣に居てくれた錐生が傍に居なくて、私は不安や孤独に、押し潰されそうになったの…。」


遂に流れた涙。息が乱れて、上手く言葉が続かない。


「錐生が……居なくて…私…ダメになるかと……思った。離れてる事が……こんなにも…苦痛になってた………。」


うっく……と声が詰まって、上手く呼吸が出来ない。涙が溢れるばかり。


こんなに私は、泣き虫だっただろうか。

私――強いつもりだった。

でも、『恋』をして、変わったんだね。

こんなにも弱く、脆くなってしまった。

貴方を想うだけで、こんなにも胸が、押し潰されそうになるんだよ……。

こんな感情…初めて覚えた。

苦しいのに、それと同じぐらいに嬉しい。

これが……恋って気持ちなんだね。



「そして…ようやく気付いたよ………。どうして……こんな気持ちに…なるのか…。私………錐生が……好きなんだ…。」



やっと伝えられた言葉。

それと同時に、ぶわっと勢いよく溢れ出した涙。


「っ……好…き……っ…錐生が…私を……っ…どう想って…て…も……この気持ち…は…っ…変わらない…よぉ……。」


もう、自分自身のコントロールが効かなくなって、幾つもの感情が溢れ出てくる。

視界はぼやけて、錐生の表情でさえ、伺えなくなっていた。


「もう…いいから……っ」


グイッと腕を引っ張られ、私の身体は、錐生の大きな身体に、優しく……包み込まれていた。

きゅっ…と腕には、力が込められていて、少しずつ、私の不安と涙は薄まっていった。


「……薫。俺は、初めて逢った時から、ずっと薫だけを見てきた。」


私の頭上で、甘く響く声。顔が上げられないから、今錐生が、どんな表情をしているのかが解らない。


「覚える、薫……?俺達が、初めて逢った時の事……。」


――…覚えてる。

忘れるはずがない。

初めて行った屋上…。あの場所で、私達は出会ったんだね…。



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