ピンク☆ゴールド【短編】
「……解りました。」


錐生がせっかく承諾したなら、その想いを無駄にはしたくない。


「そう…よかったわぁ。薫が断ったら、どうしようかと思ったのよ〜。」


私の返事にホッ…と胸を撫で下ろすお祖母ちゃん。


「用はこれだけよ。あとは戻っていいわ。式典、よろしくね。」





理事長室を出る。錐生はスタスタと先に歩いて行ってしまう。


「待って、錐生!」


私は錐生を呼び止めた。


「何?」


少し冷たい視線の錐生。何故かその視線が、心にグサッと突き刺さる。


「どうして…断らなかったの?」

「別に?深い意味は無いよ。」


背中がゾクッと震える。凍るような目つきが、私に恐怖を覚えさせる。


「じゃあ逆に聞くけどさ…、どうしてお嬢は、断らなかったの?」


私?私は……どうして?

錐生の想いを無駄にはしたくなかったんだよね?

……何の為に?


あたしが嫌なら、断ったってよかったはずだよね?

………嫌じゃ……なかったの?



「解らないよ…。」


何故だろう。錐生にそんな態度をとられると、思わず目頭が熱くなって…涙が溢れそうになるんだ……。



「おっ、お嬢!?」


気が付くと、私の頬には、いつの間にか涙が流れていた。


「ご、ごめんなさい…。」


私は錐生に泣き顔を見られないように、必死に手で顔を覆い、俯いた。


「ホントに…参るなぁ」


ふわっ…と私の身体が、錐生に包まれた。大きな手が私の頭を、優しく撫でてくれる。


「錐生……?」

「本当、ズルイよ…薫はさ。」



ズルイ……?薫……?



「早く…気付いてよ。」


そう言うと、錐生は身体を離して、何処かへ行ってしまった。


一瞬、何が起こったのか解らなかった。

ただ一つ解った事は、私が流した涙は、錐生が止めてくれたという事だけだった。



それと……私の心臓が激しく鳴り続けている事―――。





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