狼系王子とナイショの社内恋愛
「えっ……」
なんとなく嫌な予感はしていたけれど、大島さんの言葉に一気に恐怖が襲ってくる。
また?とかそういう小さな疑問を、恐怖が全部覆い包んでいく。
「は、早く、非常電話で……」
「怖いの? 顔色が悪いよ。
ちょっと待って。すぐ繋がるから大丈夫だよ」
大島さんが赤い通話ボタンを押すと、すぐに応答があった。
今社内の違うエレベーターが点検中で、それを誤操作してこちらのエレベーターを止めてしまったって事で、数分で動かしますからという返事がもらえた。
たったの数分だ。
結城さんと閉じ込められた時には、結局30分以上動かなかった上、照明だって落ちてたんだから、その時と比べればなんでもない。
そう思うのに。
心臓はドクドクと速いリズムを刻み続けて、それを緩めようとしない。
強く速い鼓動が身体も震わせて、その振動で気持ちが悪くなりそうだった。
「大丈夫だよ。すぐ出られるから」
「はい……」
心配してくれる大島さんに、愛想笑いすら返せない。
ただただ、出られるまでの数分間、自分の足元を見ている事しかできなかった。