狼系王子とナイショの社内恋愛
◇「不意打ちはやめてください」
数分後、エレベーターからは無事に解放されたのに、今度は安堵からか情けない事に貧血を起こしてしまって。
もう少しで終業時間っていう事もあって、課長から帰っていいと言われてしまった。
貧血もだけど、課長は噂の事を気にしていてくれていたみたいで。
どうやら課長は私の体調不良もそれが関係していると思っているようだった。
そんなにか弱くもないけれど、違いますと否定したところで無理してると思われるだけだからと諦めて、素直に帰る事にした。
まだ定時まで10分程度残しての退社は気が引けたけれど。
でも課長命令なんだから仕方ないと自分に言い聞かせて会社を出たところで、後ろから名前を呼ばれた。
振り向いた先にいたのは結城さんで、片手には鞄が持たれていた。
「どうしたんですか? これから外で仕事ですか?」
まだ定時前なだけにそう聞くと、結城さんがいたずらに笑う。
「表向きはそうなってます。外での仕事の後そのまま直帰って事に」
「表向き?」
「今日は水曜日でノー残業デーだし、少しくらい早く帰っても誰も文句言わないから平気ですよ。
いつもつけられていない残業時間を考えればお釣りが相当きますし」