狼系王子とナイショの社内恋愛
「佐々山課長には見せている女の顔を、俺には見せない事にイライラし出してたんだ。
初めてそう感じたのは、路上で碧衣が泣き出した時だったかな。
泣かれるのが面倒だとずっと思ってたハズだし、トラウマにまでなってたのに。
泣きじゃくる碧衣に対して、マイナスな感情はひとつもなかった」
しかも路上で、と付け足して結城さんが笑うから恥ずかしくなる。
確かにアレはダメだったと今は思う。
大人として、あんな道の真ん中で泣き出すのはあまりに非常識だ。
それくらいツラさをため込んでいたって言っても、それはいいわけにも何もならない。
だから改めて、すみませんでしたと恥ずかしさから頭を下げると、結城さんの手が頬に触れて顔を上げさせられる。
そして、優しく細められた瞳で見つめられた。
「言っただろ。あの時、俺には碧衣に対してマイナスな感情はなにひとつなかったって。
ただ……抱き締めて慰める事ができる立場にいない自分が悔しかったんだ。
その時初めて、碧衣を自分の手で抱き締めても許される立場になりたいと思った」