狼系王子とナイショの社内恋愛


あれは生理的なものというか、何度も甘く攻め立てる結城さんに耐えきれなくなって流れたものだ。
そう伝えようとすると、結城さんは、分かってる、と笑って私を止める。

「けど、理由なんか関係なく、碧衣の涙を見て我に返って……勢いのまま抱くなんてできなくなった」

微笑みを浮かべたまま、結城さんが申し訳なさそうに目元を歪ませる。

「自分の気持ちが本当かどうか確かめる時間が必要だと思った。
もしかしたらこの気持ちは一時的なもので、後になって碧衣を傷つけるかもしれないって考えて……。
あの路上で碧衣が泣いていた姿が頭をよぎって、次、碧衣をあんな風に泣かすのは自分かもしれないと思うと怖くなった」
「だから、距離を置くために避けてたんですか……?」
「近づいたままだと、冷静になれずにまた勢いに任せて押し倒すかもしれないと思ったから。
……ごめん」

視線を伏せて顔を歪めた結城さんに手を伸ばす。
そしてその頬に触れると、結城さんがゆっくりと視線を上げた。

まるで怒られた子供みたいに傷ついた瞳と視線が重なる。


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