狼系王子とナイショの社内恋愛
「一ヶ月ほど前、俺のために開いてくれた飲み会で高橋さんに謝った時は迂闊だったと思った。
気遣いが足りなかったと。
高橋さんの言うように、俺が謝ったところで自分が楽になるだけで、高橋さんにとっては何一つプラスにはならないと思ったからだ。
だけど……今は違う」
課長が微笑んで私を見る。
「高橋さんの気持ちが他の誰かに向けられている今なら、謝罪を受け入れてもらえると思ったんだ。
俺が勝手にそう感じただけだし、もしも違っていたら言って欲しいんだが……違うかい?」
「……いえ。でもなんで気づいたんですか?」
結城さんとの事は一言も言っていない。
それ以前に、それ以外の会話だって。仕事関係以外の私語はしていないのに。
疑問に顔をしかめていると、課長に笑われる。
「二年間付き合って高橋さんの事を見てきたんだ。
言われなくても表情や雰囲気で分かるよ」
「……そうですか」
「無理して笑っている時、右の口角だけ左に比べて少し上がるとか、言いたい事があるのに言えずにいる時耳に触れるとか……。
そういう具体的な事もだけど、なんとなく分かるんだ。
不思議だけど」