狼系王子とナイショの社内恋愛


「あ、先輩。そういえば、もうひとつ結城さんがらみの噂聞いたんですよ」

私がトレーやら食器やらを返却口に置いている後ろから、いつの間にかついてきていた金子さんが言う。

本当にこの子はこういう話が好きなんだな、と呆れていると、そんな私になんか構わず金子さんがキラキラした目をしながら情報提供する。

「結城さんって、誰にたいしても絶対ため口聞かないんですって」
「……なんで? 明らかな年下で後輩でも?」
「はい。今年の新入社員にもみんな敬語だって言ってましたよー。
なんでですかね。謎ですよねー」

食器を抱えたまま視線を斜め上に定めて考え込む金子さんには、声をかけても届かなそうだからそのまま食堂を後にする。

敬語しか使わない理由が何かあるんだろうかと少し考えながら4階まで階段を上がって行く。

エレベーターはあるけど、子どもの頃一度閉じ込められてから、ああいう密閉された狭い空間が苦手になってしまったから、極力使わないようにしてる。

閉じ込められたのはたった一度なのに、小さかったから強烈な印象が残っていて、そのせいで、空気が動かないというか、そういう場所全般が苦手になってしまった。
車内とか、電車とかも例外じゃない。



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