狼系王子とナイショの社内恋愛


六階建ての建物の四階にあるオフィスには、総務課と事務課、広報、企画課が入っている。
それぞれが10人未満で形成される課で、部屋は別れていない。
だだっ広いフロアに擦りガラス調のパーテーションを隔てているだけだ。

だから企画課の結城さんを見た事があったのだけど。

総務課は入口から入って一番奥に配置されているから、課に向かって歩きながら企画課にちらっと視線を向けてみると、結城さんの姿があった。
私に気づくなり顔をしかめた結城さんは座っていた椅子から立ち上がると、早足でこちらにやってくる。

総務課の私に急用なんて事はないだろうし何か他の用事ができたのか、と考えながら目を逸らすとすぐに「高橋さん」と呼び止められる。

勘弁して欲しい。
仕事で関わりなんてほとんどないのに、オフィス内でそんな大きな声で呼び止めるとか……。

こんな人の集まるお昼のオフィスで結城さんの呼び止められたりしたら、他の女性社員からの視線に八つ裂きにされるに決まってるのに。

そう思って恐る恐る顔を上げたけど、意外にも誰かの視線が私を刺す事はなくて。
とりあえず助かったと胸をなで下ろす。


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