ヒミツの隠れ家
第七回
仕事を探してすぐに見つかれば、今まで派遣社員なんてやってない。
「疲れたなぁ……」
数年ぶりにスーツに身を包み、駅を歩いていた。
書類選考が通って面接を受けたのはよかったけど、ボロボロで受かる気がしない。
「あーあ、就職が決まるまでここには来ないって思ってたのに……」
ふと気がつくと、樹さんの店の前まで来ていた。無意識に心は彼に癒されたいと願っているようだ。
樹さんは「辛くなったらいつでもおいで」って言ってくれたけど……。
「うーん……やっぱり、帰ろう」
帰ってまた仕事探しをしよう。そう思っていると「千穂ちゃん?」と、柔らかな声に呼び止められた。
「樹さん……!」
振り返ると、ゆるいパーマがかかった黒髪に、艶っぽい瞳をした樹さんがいた。
看板を手にしているので、これから開店らしい。
「どうしたの? 店においでよ」
「いえ……今日は……」
「今日はダメ? そうじゃないでしょ。今日だからこそ、おいで。というか、俺が放っておけない」
樹さんは切なげに瞳を伏せると、私の手をそっと取った。
私は彼に手を引かれるがまま、階段を上がり、『Caféサプリ』へと入る。