ヒミツの隠れ家
第十二回


私が『Cafeサプリ』で働くようになって、今日で一年。店内には、懐かしい声が響いている。

「千穂ちゃん、コーヒーひとつ」
「はい、樹さんっ!」

樹さんが一周年のお祝いも兼ねて手伝いに来てくれていた。なんだか、一年前に戻ったみたい。

「い、樹さんがいる! なんで!?」

今も常連客でいてくれる加絵さんは、彼を見つけて声をあげた。

「久しぶり。今日は店を休みにして一周年のお祝いに来たんだ」

説明しながら、加絵さんをソファ席へと案内し、注文をとった。

「千穂ちゃん、少し休憩にしよう」

加絵さんにコーヒーを出した樹さんが私をカウンター席へと促す。

座ると一気に疲れが出た。茜さんがお休みだから一人でやらなきゃ、と無意識に気負っていたみたい。

「はい、ウィンナーコーヒーだよ」

ホイップクリームがたっぷり盛られたカップが差し出される。

「おいしそう! いただきます」

ふわふわのクリームとほろ苦いコーヒーが口の中に広がる。最後は沈んでいたザラメで程よい甘さを感じた。

肩の力がスッと抜けていく。やっぱり樹さんはすごい。

「すごく……優しい味がします」
「うん、千穂ちゃんを優しく包み込むイメージで淹れたからね」
「つ、包み込むって……」
「この一年、よく頑張ったね。本当は抱きしめたいくらいだ 」

樹さんがカウンターから手を伸ばし、頭を撫でてくれる。この一年、充実していた。

楽しいことばかりじゃなくて、辛いこともしんどいこともあったけど、そんなこと、今この瞬間に全部吹き飛んだ。


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