こっち向けよ





少ししてあいさんがリビングに戻ってきた。



「舞ちゃん、本邸の執事さんがいらっしゃって、舞ちゃんにお話があるそうよ。」



あいさんの瞳はどこか悲しげで、私は愁との空間を壊されるんだと察した。



「舞お嬢様、突然申し訳御座いません。誠一郎様からの御命令で参りました。」



誠一郎とはお祖父様の名前だ。



この執事はお祖父様が暮らしている本邸の執事の中で最も偉い人、森さん。



お祖父様についているけど、お祖父様とは違って優しい人だ。



「森さん、お祖父様はなんと?」



執事やメイドに対しては優しさだけでなく、鶴見家としての威厳ある態度を忘れるなと躾られたせいで、森さんを前にすると“お嬢様”になってしまう…



こんな姿、愁に見られたくない。



「はい、本日の御昼食は本邸で舞様と食べられたいと申しております。」



スッと内ポケットから懐中時計を取り出し



「只今、11時58分ですので2分でご準備ください。その後本邸にて御支度して頂きます。」



…拒否権も何も無しね。



「わかりました。」



ニコ…と微笑み、踵を返す。





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