こっち向けよ
「…………だ、そうだが。どうだ?」
心臓の音を破って耳から頭へ侵入した言葉は、私ではなく、その後ろに向けられた。
もちろんそこには執事しかいない。
ということは…
私は後ろを振り返った。
「舞お嬢様には申し訳御座いませんが、致しかねます。」
会ったときと同じ笑みを湛えた時任さんが姿勢良く立っていた。
「お嬢様、こちらは時任グループの社長の御子息、時任 紘見(トキトウ ヒロミ)様でいらっしゃいます。」
お祖父様の斜め後ろに立つ森さんが丁寧に教えてくれた。
「と言うことは…」
「いえ、私はこの通り、時任に仕えるもので御座います。社長が私を見かねて養子に入れてくだったので、時任の名を…」
左手を胸に添えて30°お辞儀をしただけで、彼の表情はわからなくなる。
「そうでしたか…ではなぜここに?」
「私は、私の弟であり、次期社長になられる真紘坊ちゃまの代わりに参りました。」
それで、私は断られたわけね…