こっち向けよ
「舞」
まただ。
あの時と同じ。
もはや大嫌いになった響きで私の名を呼ぶ。
「結婚を、承諾してくれるな?」
さっきのことが嘘みたいな笑顔でお祖父様は私に笑いかけた。
「……」
言いたくない。
進んで私から頷くなんて、死んだ方がまし。
「…やはり、男が居るんだな?」
ドクン…!
落ち着け私!悟られるな!
「ほう…ならば、こちらにも考えがある。聞かぬと言うのなら、舞は高校卒業までアメリカに留学させる事にしよう。卒業後に帰国し、時任グループのご子息と夫婦(めおと)になれ。」
結局結婚しなきゃいけないんじゃん!
なんでこんな…
こんなこと…
「男など、おりません…わかりました。結婚を承諾させていただきます。ですから、留学させるなどとおっしゃらないでください。」