こっち向けよ
背中から直に伝わってくる体温は、
後ろから私を抱きしめているこの腕は、
耳元で聞こえる寝息は、
何一つ、私の心に響かない。
好きでもない男とベッドを共にしていながら、私は狸寝入りをしながら愁との未来を思案している。
…この人が寝ている隙に、逃げられるかな?
抜け出そうと身じろぎをすると、ギュッときつく腕が絡まる。
「ッ!」
「シャワー浴びるの?」
掠れた声は官能的で、したくもない胸のときめきを感じた。
はぁ…、こんなの不可抗力だから。
こんな状況でこんな声でしかも耳元で囁かれたら誰だってこうなる。
高鳴った胸などすぐに捨て去り、時任の腕に手をかけた。