こっち向けよ
リビングのドアを開けると、丈の長いパーカを着て黒いレギンスを履いた舞がソファに座っていた。
頭にタオルを被ってうなだれているせいで表情はわからない。
「髪、乾かさないと風邪引くぞ。」
そばへ寄り、屈んで優しく声をかけた。
タオルから覗いた、肩まで伸びた髪が時々雫を垂らしている。
「……うん、」
かすれたその返事は暖房の音にかき消されそうだ。
言葉の続きを待っていると、舞がゆっくり顔を上げて俺の目を見た。
「愁が…乾かして?」
は?
なに言ってんの、コイツ。
ジーッと見てくる。
舞が、ただジーッと見てくる。
凄くジーッと見てくる!
「…………わかった。」
拒否できなかった…