こっち向けよ
ビクッと俺の肩が跳ねた。
心のどこかでそうじゃないかと思っていたけど…
「『お前は将来素敵な婚約者と結婚するんだぞ。』ってお祖父様に言われてきたから、付き合うことに躊躇いはなかった。」
躊躇って欲しかった…
舞をこうして腕の中に閉じ込めていられるのは、ほんの一時なんだと悲しくなる。
「…付き合っていればいいと思って。政略結婚だかなんだか知らないけど、決められた結婚って嫌だから、とりあえず付き合って策を考えようと思って。」
初めからそのつもりで…?
舞はかっこいい誰かと付き合うことを楽しみにしていたのに、どうして時任は初めから破棄しようとしていたんだ?
「だけど、簡単じゃなかった…」
一層掠れて小さくなる言葉は、何かを含んでいる。