こっち向けよ
「愁!」
びっくりして思考が止まり、自分という全てのものが舞に向いた。
「大丈夫だから!私、みーちゃんに連絡したし、時任くんは…わかってると、思うし…」
俺のパーカーの裾を指先の割には強い力で摘む。
そこを見ているらしく、舞の表情はわからない。
ただ、大丈夫に見えない。
てかいつ連絡したんだ。
時任に会って話がしたい。
大粒の雨が降りしきる中で、縋るような瞳で俺の名を呼んだ舞を護りたいんだ。
なんで…
なんで俺はちっぽけで無力なんだよ…
パーカーの裾を摘んだ舞の手を努めて優しく包み込んだ。
雨音は絶えず、ガタガタと風が俺たち2人の世界を揺らす─