再生ゲーム
「もうここで良いぞ。明日も元気に学校へ来いよ」


鞄を受け取ると、ドアを閉めようとした。私は慌てて、片手で遮った。


「先生、父になにを言ったんですか? 青ざめていたようだけど……」


「ああ、あれか? りんさんも不倫してるらしいですね。ってちょっと言って見ただけだよ。先生なりのギャグさぁ~綾、虐めが起きることはもうない。たっぷり秋山には説教して置いたからな。また明日遊びに来るよ。おやすみ」


「おやすみなさい……」


パタンとドアは静かに閉まった。

――明日も来るんだ……もしかして毎日?


思考を巡らし、リビングへと足を踏み入れると、葬式のような静けさだった。


――もう虐められない。


その言葉で飛び跳ねて喜びたいくらいなのに、リビングは真っ暗な雰囲気だった。


父が項垂れているソファーへと歩き、肩を揺らした。


「お父さん、大丈夫? お水でも飲む?」


黙る父にどうしようかと、今度はりんを見たが、後姿を向け、銀色のステンレスの流しに両手を突き、静止状態だった。


前からこの家庭には亀裂が入っていた。強力な接着剤、アロンアルファのように塗り固めれば、瞬間的には元通りになったように見えるかも知れない。


だが結局は同じ部分から、ひび割れていく……もはや、そんな物のような家族だった。
< 526 / 724 >

この作品をシェア

pagetop