再生ゲーム
 ああ、駄目よ。今は自由に限られているお金が決まっている。


今月も内緒で買ってしまった。貴金属を付ける機会なんて減ってしまったというのに。奥さんに秘め事のデートや仕事、会社で私を見つめる男達が増えてくたびに、お洒落にも気合が入った。


今は、今の拓也さんは……休みの日にも仕事に行ってしまうし、私を見ているようで見てない気がする。やっと一緒に出かけるという話になっても、結局隠して買った物だから、身につけて着飾れなかった。


――悪循環。


そう頭に過ぎる。


今日こそはと歯止めを利かせ、5階の貴金属売り場に目を背け、地下の食品売り場へと向かった。店内は広く、殆どの物が揃う。小さなスーパーでは見かけないような、海外や地方のマニアックな調味料まで置いていた。


今日はどの食材が安いのかしら? なににしようかな……。


余った給料はアクセサリーに消えているので、食材はなるべく最小限に抑えていた。


「りんさんでしょ? いつも見てますよ。僕、このフロアの店長なんです」

誰? 


振り返ると、緑のエプロンを身に着けていた中年の長身の男が立っていた。


――知らない人よね? どこかで会ったかしら?


「そうですよね、誰だか分からないかぁー僕、KEIです。橋爪圭吾と言います」
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