再生ゲーム
 ――なんなの……この店は? ファンって何? 近所であんな人いた? どこで私を見かけたというの……この店? それならストーカーじゃない! 


地下では2度と買い物をするもんかと態度を固め、エコバックを胸に抱えた。屈辱の言葉が蘇る。


――しかも欲求不満って? 私ってそんな物欲しそうな顔をしているのかしら。この端整な顔は気に入っているのに。


5階に到着し、扉が開くと、貴金属が入ったショーケースが左右に並んでいた。輝かしいフロアに足を踏み出すと、憑き物が取れたように、すぅーと苛立ちが引っ込んだ。


ウットリと、憔悴してしまいそうなダイヤモンド、エメラルド、ルビー……腹立つ心緒は奥底へ一旦仕舞い込み、ショーケースを一つづつ覗いた。あまりの美しさに誘惑に駆られる。


変な男も、美樹子もりりかも綾までもを忘れていく。不快な気持ちは消し去りたい……。


「お客様、いつもご来店ありがとうございます。今日はなにをお探しですか?」


「えっと……指輪もネックレスもこの前、買ったものね。どれもこれもやっぱり素敵ですね。綺麗な物を見ていると落ち着くわね」


いつからか私には同じ店員が付いて回るようになった。白い手袋を身につけている販売員。


私はすっかり上客になっていた。
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