再生ゲーム
 男の我儘に苛立ちが込み上げたが、冷蔵庫から缶ビールを取り出した。


「いやー昼間っからワイドショーが見れて、お酒が飲めるなんて幸せですよ。美樹子は見ている番組までケチをつけるし、うるさくってねぇ」


自分の家のように、リモコンでテレビの電源を入れた。画面からは芸能人のゴシップ情報が流れていた。


「ここに置いておきますね。玄関の鍵を閉めてきますわ」


踵を返し、出入り口に向かおうとしたが手首を引っ張られ、軽々とソファーに座らされた。


「大丈夫。バッチリ閉めて来ましたから。りんさんは飲まないんですか? ゆっくりしましょうよ」


あんたと酒を交わすぐらいなら、ゲームと飲むわ。お願いだから私をこれ以上、怒らせないで。


「……お金の話が聞きたかったんですよね? 早く済ませましょう。私も忙しいので」


聞こえているのか、もう一度確かめたくなる程、ダンマリだった。


男は気持ちに勢いをつけるかのようにプルタブを開け、グイっと酒を流し込んだ。テレビ画面をぼんやりと眺めている。


――この人、本当に自己中だわ!? 信じられない! 質問には答えないのね。


「お金に困ってるんでしょう……これからも援助してあげてもいいよ」


男は唇を付けていた缶を口から離すと、いやらしい微笑を作っていた。


――援助? はっ? 馬鹿にしているわ、この男! ……でも近所の手前もあるし、どうすれば?
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