再生ゲーム
「りんさん、そんな怖い眼で見ないでよ。私、今日は恐いモノばかりを見てきたんだから……」


「あ、え!? ごめんなさい。そんなキツイ表情していたかしら……私も疲れてるのかしらね? そのマグロ、油がのっていて美味しいわよ? お醤油取るわね」


目の前の小皿にりんは醤油を注し、次に同じようにお父さんの小皿にも入れた。


「ありがとう、りん。綾、大好物を沢山食べて気力を養うんだ。死というのは、なかなか忘れられないもの。それは仕方が無いことだ。ゆっくり行こう。お前が引っ張られなければ、お父さんはそれで良いと思ってる。友達には悪いが、お前が死ななくて本当に良かった。さあ、食べよう」


「そうね、綾ちゃんが本当に……死ななくて良かった」


濁した台詞。それはどっちの意味?


ちょこっと醤油に付け、口に含んだマグロは、ほわっと簡単にとろけなくなった。


「……美味しい」


――生きているから、食べ物も美味しいと感じれるんだ。死んでしまったら、いろんなモノが無に返ってしまう。生命がまだあることに感謝した。


――ピンポーン、ピンポーン。


チャイムが鳴っている。


――まさか、猿田先生!?


「こんな時間に誰だ? りん、ちょっと見て来てくれよ」


「分かったわ」


玄関に迎えに行こうと思ったが、先生はりんのほうが嬉しいだろう。


「お父さん、このマグロ本当に美味しい!」
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