再生ゲーム
 ――しまった! 


気持ちの奥底で舌打ちをした。


それで気づいてしまった……あの男が亡くなって、喜んでいる自分がいる。


――拓也さん。貴方のためだけのこの体が、もう汚れなくてすむのよ? 可笑しすぎて、笑うのは当然よ~? でもこの思いは悟られては駄目ね。全ては貴方を失わないための行為。


「ごめんなさい。朝から頭がボーっとしていたわ、怒鳴られて気が立ってしまっていたの。そういう意味じゃないのよ……拓也さん、もうそろそろ準備をしないと」


「ああ」


納得してないような呟きだった。


拓也さん、大丈夫。信じて欲しい。運気は好転しているわ。運命は私の味方よ?


不謹慎だが、心は踊っていた。嫌々に体を許す。これがどれだけ女にとって屈辱なことか。プライドまでもがズタズタだ。それが彼の死一つで取り返せるのなら、願ったり叶ったりだ。


だが私の心と裏腹に、この二人はお葬式のように朝食を取る。


こういうところは親子だからなの? ソックリ。私だけが蚊帳の外みたい。貴方達がいくらそんなに死を重く捕らえようとも、死人はそんなことなど喜びはしないわ? そんな雰囲気は我が家ではなく、本式の悲しみの舞台でやって頂戴。


「貴方、コーヒーお替りどうぞ? 綾ちゃん、オレンジジュースのお替りは?」


二人とも無言だった。


私がなぜ気を使っているのか分かってる!? お手伝いさんではないのよ?
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