再生ゲーム
 言われた通りにひっくり返してみると、小さな丸いレンズが付いている。


――これって……。


「そう。カメラよ? 小型カメラ。横にスイッチがあるから、それでシャッターを切るの。その小窓で、どんなものが撮れているのかも見れるし、SDカードも内臓されているからパソコンへの転送も楽なの。頑張ってね、期待してるわ? るい君。もう綾は手に入ったも同然よ? 貴方の思いを、めちゃくちゃにぶつけてらっしゃいな」


「めちゃくちゃに?」


りんさんは、僕の背中に手を回し抱きしめた。弾力のあるクッションのように、僕の顔はそこへ沈められた。


――良い匂い……女の香り。


「そう。あの男が貴方を無理やり手に入れたように、貴方も同じことをすればいいのよ。やがてそれは当たり前のようになる――日常になるの」


――日常。


今は神谷のお陰で助かっているが、以前あいつは毎日僕の部屋へ現れた。その度に怯え、まるで体温が全部吸い取られてしまったかのように、体中に寒気が走った。


そんな震える僕に反応するあいつ。獲物を追い詰める興奮。血色が良くなり、息遣いが荒くなる。僕を力強く掴み、拒否をするもんなら代わりに痣が出来た。


やがて全てを諦める。諦めたんだ。なにもかも。あいつの恍惚の境地に……焼き付くような痛み、傷つき、そして――極度の疲労。


僕は、母のために自分を殺したんだ。
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