トイレキッス
外はまだ明るかった。
寒さの中に、時折日差しのぬくもりを感じた。春が少しずつ近付いている。
淵上の家を出たあと、洋平と仁さんは海沿いの道路をゆっくりと歩いていった。互いに何もしゃべらずに、まっすぐ歩きつづけた。
灯台のそばまで来たところで、仁さんが口をひらいた。
「何か食おうや」
「はい」
ふたりは近くのうどん屋にはいった。
うどん屋はすいていた。
テレビの音が、店内にひびいている。
洋平はわかめうどんを、仁さんは月見うどんを注文した。
注文したうどんはすぐにきた。
ふたりは無言でうどんをすすった。会話がないから、あっという間に食べ終えてしまった。
洋平はちびちびと水を飲んだ。仁さんは、テレビのワイドショーをぼんやりとながめていた。
唐突に仁さんは、テーブルに拳をたたきつけた。頭をかかえて、くそ、とつぶやく。
洋平はあわてて身をのりだした。
「どうしたんですか?」
「言い過ぎた」
「え?」
「淵上にきつく言い過ぎた。もっとやさしく話すべきやった」
仁さんはうめくように言った。洋平は初めて見る仁さんの弱気な姿にとまどいながらも、なんとか言葉をしぼりだした。
「でも、仁さんの言ったことは、正しいことやったと思います」
「けど、あんな言い方やと、淵上の傷をえぐることになるんやないやろか」顔をあげた。
「なあ、麻見。淵上、まさか自殺したりとかせえへんよな」
洋平は眉間にしわをよせた。
「仁さん、そんなこと考えるんは、淵上先輩に対してすごく失礼です」