トイレキッス
仁さんは三田村の死を受け入れていた。
事故の現場を目の前で見てしまって、どれほどつらかっただろうか。どれほど苦しかっただろうか。それでも仁さんは三田村の死を受け入れていた。そして、淵上のこともちゃんと考えていた。立派だ。自分とはぜんぜんちがう。
淵上も三田村の死を受け入れていた。
演劇部の中で、一番三田村と親しかったのは彼女だ。その悲しみがどれほどのものだったかは、とても計り知れない。洋平と同じく泣くことができなかったが、今日、どうにか涙を流すことができた。苦しみながら、三田村の死を認めたのだ。立派だ。自分とはぜんぜんちがう。
ミツキも三田村の死を受け入れていた。
葬式のとき、ミツキは部員の中で一番大きな泣き声をあげていた。洋平は、一週間後に笑っていたミツキを見て、腹を立てたことを後悔した。そういえば、彼女は何度も自分の様子がおかしいことを気づかってくれていた。立派だ。自分とはぜんぜんちがう。
藤沢も三田村の死を受け入れていた。
三田村の葬式から一週間後、演劇部の活動を再開しようと持ちかけたのは藤沢だ。洋平は心の中でそれに反発していた。まだ一週間しかたっていないのに、と思っていた。しかし、いま思えば藤沢の行動は正しかった。部活動を再開することで、藤沢は悲しみに暮れていた部員達の心を前に向かわせようとしたのだ。立派だ。自分とはぜんぜんちがう。
他の部員達も三田村の死を受け入れていた。
彼等には彼等なりの、様々な葛藤があったのだろう。それをのりこえて、みんなはいま笑っている。そして卒業生送迎会の発表をどうにかしようとがんばっている。立派だ。自分とはぜんぜんちがう。
みんな立派だ。自分とはぜんぜんちがう。
「だっせえ」洋平は吐き捨てた。「おれ、だっせえ」