トイレキッス
役者達が屋上で練習している間、洋平と藤沢は、部室で舞台設計について話しあった。藤沢は言った。
「今回はさすがに時間がないけん、図案はわたしが書くわ。麻見君は次の機会にがんばって」
「ちょっと待ってくださいよ」洋平はあわてた。「おれに描かせてくださいよ」
藤沢はきびしくにらんできた。
「描けるの?」
「描けます」
洋平は力強くうなずいた。
「時間ないのはわかっとるよね。いつまでに描けるの?」
「明日までに」
藤沢はますますきびしくにらんできた。
「ほんまやね?」ゆっくりとつぶやく。「描けんかったなんてことになったら、ぶっ殺すけんね」
「はい」
家に帰ると、洋平は夕飯を食べずに机にむかった。図案はすぐに描くことができた。淵上の台本を読んだとき、ある舞台の風景が頭に浮かんでいた。忘れないうちに、そのイメージを図案に描きうつしていった。