トイレキッス


「明日やな」


「明日やね」


昼休み、洋平はミツキといっしょに学校の中庭で弁当を食べていた。


卒業生送迎会は、翌日までにせまっていた。ぼんやりと花壇を見つめながら、洋平は心の中で、いままでの自分の頑張り様をほめたたえた。
大道具と舞台セットはどうにか完成した。昨日、他の部員達に手伝ってもらって、体育館の舞台裏にそれを運びこんでおいた。


製作を始めてから十五日間、藤沢に言われたとおり、一日三時間睡眠の生活をつづけた。


死ぬかと思った。


三日で目の下にくっきりと隈ができた。五日で時々まっすぐに歩けなくなった。十日で耳鳴りがするようになり、完成した日には、眠気のあまりに、食べ物をうまく噛めなくなっており、三食流動食ですませた。
毎日コーヒーを入れた水筒を持ち歩き、意識が飛びそうになると、あわててそれを摂取した。それでも眠りそうになった時は、友人や家族に頼んでぶん殴ってもらった。


藤沢も頑張った。彼女も、自宅で小道具や衣装をどうにか完成させていた。しかし、体調を崩してしまい、今日は学校を休んでいた。明日の朝、その小道具と衣装を学校へ運ぶことになっていた。


物思いにふける洋平の横で、ミツキは台本を読みながら弁当を食べていた。今回彼女には、キリンの役があたえられていた。毎日必死でキリンの動きを練習したおかげで、弁当を食べる口の動きも、どことなくキリンに似るようになっていた。


「明日やな」



「明日やね」


ふたりはまたそうつぶやくと、晴れわたる空を見上げた。





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