トイレキッス
「うそでしょう」
「うそやない」
「だめですよ。おれ、川本と付き合ってるんですから」
洋平は身をひいた。
「いやよ」
「いやって言われても」
「わかっとるけど、いやよ。納得しとうない」
子供みたいにすねた顔をして、洋平の手を強くにぎってきた。ふりはらおうとすると、すごい力をこめてくる。
「痛て、だめ、ですよ」
「川本さんと付き合うのやめて、わたしにのりかえてや」
「だめなんです」
「そこをなんとか」
「すいません、だめなんです」
声を大きくすると、藤沢はうつむいて黙りこんだ。
居心地の悪い雰囲気がふたりを包む。洋平がもう一言つけたそうとすると、藤沢は手をはなして立ち上がった。そして、
「わたし、やっぱり寝るね」
とつぶやいて部屋から出ていった。
そのあと時間がたつにつれて、洋平は告白されたという事実にだんだんと興奮してきた。藤沢の手のやわらかさが、頭を支配する。彼女が着ていたパジャマのしわから、裸の姿を思いうかべる。
あほ、何考えとんで、おれは。
頭をたたいて寝転がった。わきあがってくる妄想を必死で打ち消そうとしているうちに、だんだんと瞼が重くなり、洋平は眠ってしまった。