トイレキッス
芝居がはじまった。
ミツキや仁さんをふくめた役者達が、舞台の上の草原で様々な動物を演じる。
ライオンに自分の子供が食われるのを、遠くからながめることしかできないシマウマ。
足を一本失った象の日常。
恋をしてしまったキリンとサイ。
様々な動物の物語を無言劇のスタイルで演じてゆく。
役者が動くたびに、体が草とこすれて、その音が、自然の臨場感を生みだしている。
音楽や演出はまったくない。
はりつめた沈黙が体育館を支配している。
観客達の目は舞台に釘付けになっている。
それをちらちらと見て、舞台裏の部員達はガッツポーズをとる。
芝居が終わり、舞台の幕が閉じると、観客達は小さく息を吐いてから、大きな拍手を鳴らした。舞台裏で役者達は、互いの肩をたたきあった。洋平は涙をふいて笑いながら、他の部員達といっしょに舞台装置の後片付けを始めた。
こうして、卒業生送迎会での演劇部の芝居、『百獣』は無事に終了した。