トイレキッス
昼休み、校舎裏で弁当を食べていると、購買のパンを持った藤沢が駆けよってきた。洋平は顔をふせた。藤沢は隣に座った。
「また、お昼食べる場所、変えたんやね」
「はあ」
「そうまでして、わたしをさけたいん?」
洋平は返事をせずに、水筒の麦茶を飲んだ。
「ええんやけどね。別にええんやけどね」
藤沢はカレーパンにかぶりついた。
「すいません」
「だから、ええって。どう考えても、わたしがやってることって、なんか間違ってるんやけん」ため息をつく。「そうなんよね。間違ってるって分かってるんよね。なのに、わたし何やってるんやろ?」
「すいません」
「もう、あやまらんといてや。麻見君は悪くないんやけん」
そのまま互いに無言になり、しばらくの間、静かに食事をつづけた。
洋平はおかずを残して弁当の蓋をとじた。気まずくて、食欲がなくなっていた。
「早いもん勝ちなんかな」
藤沢がつぶやいた。
「え?」
「なんで恋愛って早いもん勝ちなんかな。早く好きになって、早く告白して、早くつきあったほうだけがいい目見るんよね。あとから好きになったほうは損ばかり。早いほうも、あとのほうも、想いはいっしょやのにね。もしかしたら、あとのほうが、相手を幸せにできるかもしれんのに」
「はあ」
「まあ、当たり前のことなんやけどね。でもなんか納得いかんのよ」
洋平は何も言えなかった。
「わたし何言うてんやろね。自分でもようわからんなってきた」
苦笑しながら、藤沢は紙パックの牛乳を一口飲んだ。
ふと視線を感じて、洋平は上を見た。
二階の窓からミツキが顔を出していて、無表情でふたりを見下ろしていた。洋平が立ちあがって何か言おうとすると、すぐに顔をひっこめた。
「川本、おい川本」
あわてて呼んだが、ミツキはもう顔を出さなかった。洋平は歯を喰いしばって壁を蹴った。藤沢はそれを見ながらパンを食べつづけていた。