トイレキッス
翌日、藤沢は学校を休んだ。
洋平は、ミツキときっちり話をしようと思った。
朝、登校してからすぐに、ミツキのクラスへ向かった。
教室をのぞくと、中は生徒達のおしゃべりでざわついていた。
窓側の、前から三番目の席。ミツキはそこに座っていた。
洋平は、ゆっくりと目を見開いた。
ミツキの顔に、青痣ができていた。手にバンソーコが貼られており、両膝に包帯が巻かれていた。
全身が、傷だらけになっていたのだ。
「川本」
思わず叫んでいた。生徒達がいっせいにこちらを向いた。
ミツキは洋平に気付くと、あからさまに顔をそむけて走りだした。そして、反対側の入口から教室を出て、そのまま逃げようとした。
「ちょっと待てや。おまえ、どしたんで、それ?」
洋平も走って追いかけた。ミツキは何度かこちらをふりかえりながら、スピードをあげようとしていたが、足の傷のせいでうまく走れないようだった。
あと少しで追いつきそうになったとき、ミツキは女子トイレに飛びこんた゛。洋平は入口の前で立ち止まった。中から、何人かの女子生徒達の笑い声が聞こえてきた。
「くそ」
洋平はゆっくりと深呼吸をしてから、女子トイレに足を踏み入れた。洗面台の前でたむろっていた女子生徒達が、洋平を見て息を呑んだ。恥ずかしさに耐えながら、洋平は彼女達の横を通りすぎた。
ミツキは奥で、背をむけて立っていた。
「その傷は何ぞ?」
洋平が話しかけると、ミツキはふりかえってにらみつけてきた。
「男のくせに、こんな所にはいってくんなや。スケベ」
「その傷は何ぞ?」
「わたし、用を足したいんやけど」
洋平はため息をついた。
「どうぞ。おれ、ここで待ってるけん」
「ウンコなんやけど」
「待ってるけん」
ミツキはうつむいてだまりこんだ。洋平はさらに聞いた。
「その傷、どしたんで?」
「転んだって言っても、信じないよね」
「当たり前やろ。転んだくらいで、そんな傷ができるかいや」
「もう少し傷が治ってから話したかったんやけどな」ミツキは仕方ないといった表情でつぶやいた。「ぼこぼこにぶん殴られたんよ」