トイレキッス


「あのひとが、二年生で部長の高橋仁さん」


眼鏡の女生徒が紹介すると同時に、その仁さんは洋平の前に立った。文化祭の舞台発表で、配役紹介をやっていたひとだ。がっしりとした体つきをしている。仁さんは、野太い声で洋平に話しかけた。


「入部届けはもう出したんか?」


「いや、まだです。明日出すつもりです」


「ほうか、まあ、男は歓迎するで。うちの部は女ばっかで、女臭くてかなわんけんの」


「悪かったわね、女臭くて」


眼鏡の女生徒が仁さんを軽くたたいた。


そのあと、洋平は、部員達の前で自己紹介をした。適当なあいさつをしゃべりながら、部員達の中から、川本ミツキの姿を探した。


いない。


ひとりひとりの顔をていねいに確認したが、ミツキの顔は見当たらない。


今日は学校に来ていないのだろうか?


洋平はがっかりした。


「何をきょろきょろしとんで?」


仁さんがいぶかしげな目をむけたその時、甲高い声が聞こえてきた。


「すいません、遅れました」


声のした方を向くと、見覚えのあるショートカットが目にはいった。


屋上のドアの前に、川本ミツキが立っていた。


彼女は洋平を見ると、おや、まあ、といった感じの表情でつぶやいた。


「あ、缶コーヒーのひとだ」



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