トイレキッス


日曜日がやってきた。


洋平は午前五時に目をさました。


風呂に入ってしっかりと体を洗った。朝食をとり、いつもより多めに歯磨き粉を使って葉をみがいた。そして、昨晩に厳選しておいた洋服を身につけた。


これで準備は万端だ。


しかしまだ午前七時。約束の十一時まで、まだだいぶ時間がある。


とりあえず、また風呂に入った。めずらしく早起きしたので、少し眠い。湯船につかりながら、洋平は、ミツキに会ったとき、どんな感じであいさつをすればかっこいいかを、一生懸命に考えた。


「うーむ」


「…………」




考えているうちに、風呂で寝てしまった。


目覚めると、時計の針は十二時をさしていた。


「うぎゃあ」


洋平は青くなった。大急ぎで着替えて、つんのめりながら家を飛び出した。


自転車に乗り、全力でペダルをこぎながら、馬鹿阿呆糞間抜けと何度も自分をののしった。風呂からあがって、ろくに体をふかずに着替えたので、厳選した洋服はびちょびちょになっていた。


神社に着くと、ミツキは石階段に座って待っていた。


「ごめん悪かったすまん申し訳ない」


洋平は自転車から降りると、息を切らしながらあやまった。


ミツキはきょとんとしながら聞いた。


「何であやまるん?」


「え?いや、だっておれ、遅刻したから」


ミツキは腕時計を見た。


「あ、ほんまや。もう十二時過ぎてるやん」ミツキは笑った。「ずっと雲見とったけん、気づかんかったわ」


「雲?」


「うん、ほら、あそこ」山の方を指さす。「あのへんの雲の形、ええ感じなことない?」


どのへんの雲の形がええ感じなのかはわからなかったが、洋平はうなずいておいた。


「十一時にここ来てから、おもしろくてずっとあの雲見てたんよ。まさか一時間以上もたっとったなんて思わんかったわ」


洋平は、何と言えばいいのかわからなかった。


「ほな行こか」


そう言って立ち上がると、ミツキは石階段を駆けのぼりはじめた。


「ちょっと、どこ行くんで?」


「え?わたしん家に決まってるやん」


「そっちには神社しかないで」


「うん」ミツキは立ち止まってふりむいた。「わたしん家、神社なんよ」





< 22 / 134 >

この作品をシェア

pagetop