トイレキッス
日曜日がやってきた。
洋平は午前五時に目をさました。
風呂に入ってしっかりと体を洗った。朝食をとり、いつもより多めに歯磨き粉を使って葉をみがいた。そして、昨晩に厳選しておいた洋服を身につけた。
これで準備は万端だ。
しかしまだ午前七時。約束の十一時まで、まだだいぶ時間がある。
とりあえず、また風呂に入った。めずらしく早起きしたので、少し眠い。湯船につかりながら、洋平は、ミツキに会ったとき、どんな感じであいさつをすればかっこいいかを、一生懸命に考えた。
「うーむ」
「…………」
考えているうちに、風呂で寝てしまった。
目覚めると、時計の針は十二時をさしていた。
「うぎゃあ」
洋平は青くなった。大急ぎで着替えて、つんのめりながら家を飛び出した。
自転車に乗り、全力でペダルをこぎながら、馬鹿阿呆糞間抜けと何度も自分をののしった。風呂からあがって、ろくに体をふかずに着替えたので、厳選した洋服はびちょびちょになっていた。
神社に着くと、ミツキは石階段に座って待っていた。
「ごめん悪かったすまん申し訳ない」
洋平は自転車から降りると、息を切らしながらあやまった。
ミツキはきょとんとしながら聞いた。
「何であやまるん?」
「え?いや、だっておれ、遅刻したから」
ミツキは腕時計を見た。
「あ、ほんまや。もう十二時過ぎてるやん」ミツキは笑った。「ずっと雲見とったけん、気づかんかったわ」
「雲?」
「うん、ほら、あそこ」山の方を指さす。「あのへんの雲の形、ええ感じなことない?」
どのへんの雲の形がええ感じなのかはわからなかったが、洋平はうなずいておいた。
「十一時にここ来てから、おもしろくてずっとあの雲見てたんよ。まさか一時間以上もたっとったなんて思わんかったわ」
洋平は、何と言えばいいのかわからなかった。
「ほな行こか」
そう言って立ち上がると、ミツキは石階段を駆けのぼりはじめた。
「ちょっと、どこ行くんで?」
「え?わたしん家に決まってるやん」
「そっちには神社しかないで」
「うん」ミツキは立ち止まってふりむいた。「わたしん家、神社なんよ」