トイレキッス
王様は、洋平の前まで来ると、その場にぺたんと座りこんだ。かなり長時間、走り続けていたらしく、呼吸が荒い。
ぼうぜんとする洋平を見上げて、王様は言った。
「ちょうだい」
女性の声だった。
「え?」
「そのコーヒー、ちょっとだけちょうだいや」
「あ、はい」
洋平は素直に缶コーヒーをさしだした。
それを受け取ると、王様は乱暴な手つきでひげをはぎとった。どうやら、付けひげだったようだ。
下から、十六歳くらいの少女の顔がのぞいた。顔中が汗で濡れている。
この王様は、本物ではなく、少女の変装だったわけだ。しかしなぜ、そんな格好をしているのか?