トイレキッス
そして放課後、淵上本人からその考えが当たっていたことを聞いて、洋平は飛びあがるほどおどろいた。
なんと彼女はあの小説「いけない女学生」に影響を受けて、あんな行動をとったというのだ。
洋平と三田村は、人気のない階段の踊り場で、淵上が途切れ途切れに話すのを聞いた。
昨晩、洋平の家から帰宅した淵上は、すぐにあの本を読みはじめた。そしてすぐに内容が、「恋愛上手になる本」ではないことがわかって、赤面しながらページをとじた。しかし思春期特有の性への興味が働いて、またページをひらいてしまい、胸を高鳴らせながら読了してしまった。男のひとはこういうことをされるとよろこぶのか、と思って淵上は妙な気分になった。
そこでふと考えた。
三田村もこういうことをされるとよろこぶのだろうかと。
そのとき、淵上は異様に興奮していた。生まれて始めてえっちな本を読んだからだ。いままで潔癖だったぶん、その衝撃は大きかったようだ。
「それで、つい、あんなことしちゃったんよ」耳まで赤くしながら淵上はうつむいた。「三田村、ごめん」
昨晩彼女は、「麻見君が」貸してくれた本を読んで、「そのとおりにした」と言っていたわけだ。
告白はできないのに、夜這いは実行できるというその神経が、洋平には理解できなかった。
三田村は、眉をひそめて、ふむ、とうなった。
「要するに、淵上に間違えてそういう本を渡した麻見が一番悪いってことやな」
「え、そんな」
洋平が反論しようとすると、三田村は淵上に聞こえないよう、素早くささやいた。
「そういうことにしとけ。これ以上、淵上を責めたらかわいそうやろ」
洋平は、しぶしぶ反論をひっこめた。
この奇妙な出来事がきっかけとなって、その後、三田村と淵上はつきあうようになった。部員達は、この対称的なふたりがくっついたことにおどろいていた。淵上は、相変わらず無表情だったが、その目の色は、前よりも少し明るくなっていた。