トイレキッス


土曜日の正午、洋平は仁さんと校門の前で待ちあわせて幼稚園へむかった。


山のふもとに、その幼稚園は建っていた。


園舎内に入ると、やせた老婦人が出迎えてくれた。そのひとが、園長先生だった。


「いらっしゃい、寒かったやろ?中にはいって、お茶でも飲んでいき」


「あ、いえ、おかまいなく。今日は少し講堂を見せてもらったら、すぐに帰るつもりですから」


仁さんはていねいにそう言った。


「あら、そう。あ、送ってもらった台本読んだで。とてもおもしろかったわ。ありがとね。こんなちっこい幼稚園のお遊戯会でお芝居やってくれて」


「いえ、こちらこそ、こんな機会を与えてもらって感謝しています。園児を相手に芝居をするんは初めてですから、いろいろと勉強になると思います」


仁さんと洋平は、講堂に案内された。
講堂は古い木造の建物だった。中は百人くらいひとが入ればひとがいっぱいになるくらいの広さだ。足を踏み入れると、床が小さくきしんだ。
洋平は舞台に目を向けた。
長い間使われていないらしく、舞台の上にはうっすらと埃が積もっていた。


「舞台の形をよく目に焼き付けとき。そして、大道具や小道具をどう配置すれば、観客によく見えるかを、よく考えるんやで」


仁さんの言葉にうなずきながら、洋平は舞台にあがってみた。
舞台は、台形の形をしていた。
洋平は台本の内容を思い浮かべながら、舞台設計の構想をたてはじめた。
下では、仁さんが園長先生に、舞台の照明や音響設備について、いろいろと質問をしていた。


< 46 / 134 >

この作品をシェア

pagetop