トイレキッス
午後二時過ぎに、ふたりは園長先生に礼を言って幼稚園を出た。
帰り道の途中、仁さんがこんなことを聞いてきた。
「なあ、老若男女で、もっとも楽しませるのが難しい年齢は何歳くらいやと思う?赤ちゃんは例外やで」
少し考えてから洋平は首を横にふった。
「わかりません」
「答えは四歳から六歳くらい。つまり幼児よ」
「なんでですか?」
「まだ完全に常識を身につけてないからやな。おれらくらいの年齢になると、こういうものが面白いっちゅう常識が、なんとなく頭ん中にできあがってるもんなんよ。でも幼児には、まだそれがあんまりない。だから、楽しませるのが難しい。絵本作ってるひととかは、そういう面でけっこう苦労しとるらしいで」
仁さんは笑みを浮かべてつづけた。
「今回、うちの部が楽しませないかん相手も幼児じゃ」
「あ」
「そう、幼児を楽しませるんは難しい。淵上が書いた台本は確かにいい。でも、それはおれら高校生の感想であって、幼稚園児が同じように感じるとは限らない。もしかしたら、くそつまらんと思われるかもしれへん」
「仁さん、不安なんですか?」
頭をたたかれた。
「あほ、おれはわくわくしとるんじゃ。難しいからこそ、面白いもんやろが」
仁さんは子供のように笑った。