トイレキッス


次の日の放課後、部室で仁さんによって配役が発表された。


主役の女の子は、ミツキがやることになった。


「わたしなんかでいいんですか?」


不安そうにミツキが聞くと、仁さんは強くうなずいてみせた。


「おう。主人公は、活発な女の子やから、おまえにぴったしじゃ」


「顔もガキっぽいしの」


三田村がからかうと、部員達の間に笑いが起こった。


「何よ」ミツキは頬をふくらませた。「三田村先輩こそ、その役似合ってますよ」


三田村は、サンタクロースの偽者のひとりで、サンタクロースのふりをした泥棒の役だった。


配役がすべて決まり、さっそく練習がはじまった。役者達は全員屋上へあがる。


部室には、洋平と藤沢と淵上だけが残った。淵上はソファの上で眠っていた。六限目の授業が体育だったので疲れているそうだ。


「それじゃあ麻見君」藤沢が洋平を向いた。「舞台設計の図案、見せてくれる?」


「はい」


洋平はディバッグの中からレポート用紙の束を取りだし、藤沢に手渡した。


藤沢は、無言でそれに目を通しはじめた。


洋平は息を呑んで、彼女の視線が紙の上を走るのをながめていた。
淵上の寝息や、時計の秒をきざむ音が、やけに大きく聞こえた。


見終わると、藤沢はレポート用紙の束をテーブルに置いて、はっきりと言った。


「これ全然使えんわ」


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