トイレキッス
ふたりは協力して舞台の寸法を計った。この寸法は、背景の大道具を作るときの参考にするのだ。横幅の長さをノートに書き記しながら、洋平は聞いた。
「練習は進んでるん?」
「一応ね。わたし、台詞が多いけん、芝居の後半になると、喉が疲れてくるんよ」
「主役やけんな。しゃあないやろ」
「主役かあ」ため息をついた。「正直言って、まだ不安やわ。わたしなんかにできるんやろか?」
「大丈夫やって、仁さんが決めてくれたんやろ」
「せやけど」
うつむくミツキを見て、洋平は話を変えることにした。
「それより、いまはどのシーン練習してるん?」
「え、いま?いまはね、三田村先輩が演じる偽者の泥棒サンタの正体を暴くところ」
「ちょっと、演ってみてくれん?」
「ええよ」
そう言ってうなずくと、ミツキは台本と水筒を下に置いて、舞台の中心に立った。
「いくよ」
「おう」
ミツキは子供のような表情になり、舌足らずな声をはりあげた。
「あなたも偽者ね。だって、ふつうのサンタさんは、白い袋を持っているものよ。それなのに、あなたが背負っているものは何?泥棒さんがよく使うような風呂敷じゃない」
ひととおり演じてみせてから、ミツキは、どう?と聞いた。洋平がほめようとして口をひらいたとき、いらただしげな声が飛んできた。
「麻見君、舞台の寸法は計り終わったん?」
声のした方を向くと、舞台の下に立った藤沢が、こちらをにらんでいた。