トイレキッス


そのとき、鐘の音が鳴りひびいた。


零時になったので、和尚さんが除夜の鐘のひとつめをついたのだ。


「今年も無事に年が明けました。みなさん、あけましておめでとうございます」


そう言って和尚さんがおじぎをすると、まわりのひと達もそれぞれ、あけましておめでとうございます、と声をあげた。


藤沢はため息をついて、洋平に笑いかけた。


「変なこと聞いてごめん。麻見君、あけましておめでとう」


洋平も笑った。


「あけましておめでとうございます」


ふたたび鐘の音が鳴りひびいた。
ふりむくと、人々が一列にならんで、ひとりずつ鐘をつきはじめていた。洋平と藤沢も、その列に加わった。


鐘のつきかたは、ひとによってちがっていた。老人達は、一年間をふりかえるように、ゆっくりと鐘をついた。子供達は、誰が一番大きい音をだせるかを競争していた。洋平も大きい音をだそうとして、力をこめてついたが、あまり大きい音は出なかった。藤沢は、和尚さんにあいさつをしてから、ていねいに鐘をついた。


藤沢と別れると、洋平は、自治会からもらったみかんを食べながら、いったん家に帰った。車庫から自転車をとりだし、それに乗って神社へ向かう。

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