トイレキッス
神社にも、たくさんのひとが集まっていた。
初詣をすませると、洋平は群衆の中からミツキの姿を探した。
本堂の近くに屋台があり、ミツキはそこで巫女の格好をしてお守りを売っていた。
「あけましておめでとう」
声をかけると、ミツキはこちらを見て、にかっと笑った。
「あ、来た来た」隣に立つ女性に言う。「姉ちゃん、わたしちょっと休憩してくるけん」
「ええけど」ミツキの姉は洋平を凝視した。「すぐにもどってくるんよ」
「うん、わかった」
洋平のそばに来ると、ミツキはていねいに頭をさげた。
「あけましておめでとう」
「おう、おめでとう。神社の娘っていろいろとせわしいんやの」
「正月だけよ。普段は境内の掃除だって、たまにしかやらんのやけん。あ、そうだ、話があるんよ。ちょっとうちに来て」
家に入ると、ふたりはミツキの部屋へ行った。
以前来たときよりも、部屋はちらかっており、中央にはコタツが出されていた。
「島へ行こうや」
部屋に入るなり、いきなりミツキがそう言った。
「島?」
「そう。冬休みに、ふたりで島へ行こう」
「島って、……なんで?」
「昨日、テレビで日本の島のドキュメンタリーを見てたら無性に行きたくなったんよ。だから行こう」
……なるほど、これが川本ミツキのノリというやつか。
少しだけ彼女を理解できた気がした。
「別にええけど、どこの島に行くん?」
「加火島がいい」
「ええ?」
洋平は眉をひそめた。
加火島は、洋平達が住む町の港から、船で一時間程で着く小さな島だ。
「遠足で行ったことあるけど、あそこ、何もないやろ」
「何もないからええんよ」ミツキは顔を近付けてきた。「そのほうが、お互い相手のことだけに集中できるやろ」
「…………」
そんなふうに言われると、反論できなくなる。
「じゃあ、まあ、加火島でええわ」
洋平は顔を赤らめながらつぶやいた。
ふたりはコタツに入って、地図を広げながら、計画をたてはじめた。