トイレキッス
一月四日の朝、洋平とミツキは船に乗って加火島へ行った。
あいにく空は曇っており、冷たい風が吹きすさんでいたが、ふたりのテンションは高かった。
船での移動中、誰もいない甲板の上で大声ではしゃぎまわり、時々飛んでくる海鳥をからかったりした。
島につくと、ふたりは山へ登ることにした。島の風景が見渡せるようなところで弁当を食べようと船の中で決めていたのだ。
山道にはいると、草の匂いが洋平の鼻をくすぐった。喉を通る空気も草の味がするような気がする。
木の葉が空を隠すので、あたりは薄暗かった。地面の土はしめっていて、油断していたら転んでしまいそうだった。ふたりは足元に気を付けながら、ゆっくりと歩いていった。
歩きながら、ふたりはたくさんの話をした。
ミツキの言ったとおり、何もない場所なだけにおたがい相手のことに集中することができた。どちらも熱にうかされたかのようにしゃべりまくった。
話題は、互いの人生。
産まれて、どんな幼稚園時代を、小学校時代を、中学時代を過ごしてきたかを細かく話した。
ミツキは自分の嫌な部分も隠さずに、ミツキのいままでの生き方を本気で語った。
洋平も、それに答えて、これはまじで話さなと覚悟を決めて、幼少時代のおもらしから、中学時代にひとをいじめた罪まで、ぶちまけられるだけぶちまけた。
共感する部分も見つかり、喜び、反発する部分も見つかり、口論になり、やかましいふたりの会話は山道の静寂をかきみだした。
そのおかげで、頂上に着く頃には、自然に手をつないで歩けるようになっていた。