トイレキッス
頂上には古い展望台があったので、そこで弁当を食べることにした。
ふたりは展望台に登ると、鉄柵に駆け寄って島の風景を見渡した。歩いているときには何の感慨もわかなかった、民家や畑が、こうして高いところから見下ろしてみると、とても美しく見えた。
ふたりは腰をおろして弁当を食べはじめた。
きゅうりの浅漬けをかじりながら、ミツキはこんなことをたずねた。
「麻見君さ、藤沢先輩とふたりだけで裏方やってると、人数少なくて大変やろ?」
「まあ、大変っちゃ大変やけど」
鮭の切身の骨をとりのぞきながら、洋平はうなずく。
「じゃあさ、勧誘しよや」
「勧誘?」
「裏方やれそうな同級生に声をかけて、演劇部にはいってもらうんよ」
「いや、いまさら、そんなんええよ。ふたりだけでも、どうにかやれるけん」
「でも、きついんやろ?」
「大丈夫やって。それにおれが入る前は、藤沢先輩ひとりでこなしてたんやろ?そん時にくらべりゃあ少しは楽になってるやろうし」
「せやけど」ミツキはうつむいた。「裏方の作業中とか、藤沢先輩と、ふたりきりになることが多いんやろ?」
洋平は首をかしげた。
「それがどうかしたん?」
「え?麻見君、気付いてないん?」
「気付いてないって、何が?」
「藤沢先輩が」
とミツキが言いかけたとき、ふたりの間に白い粒のようなものがゆっくりと落ちてきた。
ふたりは上を向いてつぶやいた。
「雪?」
「雪やね」
空いっぱいの雪が静かに降りはじめていた。
「こりゃもうすぐめっちゃ寒なるわ。早く山を降りようか」
「うん」